「認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学 編」こちらの本、読みました。
以前記事にした「情報を正しく選択するための認知バイアス事典」が面白かったので、同シリーズの第2弾となる本書も読みました。
第1弾が「論理学」「認知科学」「社会心理学」3つの専門分野からのアプローチで、第2弾となる本書は「行動経済学」「統計学」「情報学」3つの専門分野からのアプローチで書かれているようです。
なお、本書の読書感想は「前編」「中編」「後編」の3つに分けて投稿しようと思います。
今回は前編としてアレコレ書いていきます。
本の内容
まずはAmazonから本の内容を抜粋します。
■「行動経済学」「統計学」「情報学」の3つの研究分野からアプローチ。
合計60の認知バイアスを解説します。
なぜか人間に実装されている脳のバグとも言うべき「認知バイアス」。
本書では、「行動経済学」「統計学」「情報学」の3つの研究分野からアプローチし、
計60の認知バイアスを豊富な図版とイラストを用いて解説します。
こんな感じの本です。
記事の冒頭でも触れましたが、以前記事にした「情報を正しく選択するための認知バイアス事典」が面白かったので、同シリーズの第2弾となる本書を読みました。
第1弾と第2弾で著者は違いましたが、監修者が同じようです。
そのためか第1弾と同様、第2弾も非常に面白かったです。
いくつか引用と感想
今回の記事では「第1部 認知バイアスへの行動経済学的アプローチ」から、いくつか引用してみます。
サンクコストの誤謬
食べ放題でコスパを考える愚
食べ放題は、まったく食べなくても大量に食べても料金は同じだ。固定された料金なので、安心して好きなものを好きなだけ食べて、満足すればいい。それが本来の食べ放題の楽しみ方だ。
しかし、中には食べ放題で後悔する人がいる。その原因は、支払った代金分、あるいはそれ以上を食べようとするも、何らかの理由によってそれが叶わなかったからだ。自分の好みで食べるものを決めればいいのに、最近では原価率の高さで選ぶ人もいるそうだ。
サンクコストの誤謬とは、このように一度支払って戻ってこない費用に固執するあまり、合理的な判断ができないことを指す。
「サンクコストの誤謬」は、これまで読んだ本でも何度か遭遇しています。
ですが、引用するには至りませんでした。
なんとなく、他のバイアスの方が興味深かったことが多かったためです。
ただ、今回は「サンクコストの誤謬」の解説で使われた事例が面白かったので引用してみました。
サンクコストの事例はたくさんあるのですが、その中で食べ放題をチョイスして書かれていたのが自分としてはビビッときたみたいです。(サンクコストの事例が載っているリンクを貼っておきます。)
おそらく、食べ放題で後悔した経験が自分にもあったからビビッときたのかなと思います。
最近は食べ放題をする機会がほとんど無くなってしまいましたが、学生時代の食べ放題で代金分を回収しようと食べ過ぎてしまった経験は自分にもあります。
おそらく、そういった経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。
また、サンクコストの誤謬に陥っていない良い事例として「スーパーマーケットの半額シール」が紹介されていたのも良かったです。
この事例が紹介されていたのも、今回引用した理由の1つです。
ということで、次の引用は「スーパーマーケットの半額シール」の事例です。
スーパーマーケットの半額シールを見習おう
サンクコストの誤謬が起こる原因はいくつか考えられる。
損失・失敗として認めたくない、今後の進展に楽観的、あるいはあまり深く考えないようにしているなどの惰性によるものである。しかし、そうはいってもなかなか難しい。なぜなら、官僚や一流企業でもこの呪縛から解放されないからだ。
そこで考え方の1つとして、閉店間際のスーパーマーケットで見られる生鮮食品やお惣菜の特売を見習ってほしい。
店側としては、食材を仕入れた時点でサンクコストだ。調理や加工をしたら返品不可能なので、売れ残った段階で損失確定となる。だからスーパーマーケットは定価で売れ残るよりも、サンクコストに固執せず、破格で処分する。これは仕入れ分の回収をあきらめて、加工賃の一部でも回収しようとしているわけだ。
サンクコストの誤謬を脱するのは、なかなか難しい印象があります。
「無駄にしたくない」「無駄だと思いたくない」心理状況にあるわけなので、そこから脱する決断をするのは勇気が必要そうです。
そういった意味では、スーパーマーケットの半額シールは潔い対策に感じます。
破格で処分して少しでも回収しようとしているわけで、良い意味でプライドが無い感じがして良いなと思いました。
デフォルト効果
レジ袋がデフォルト?
飛行機や新幹線のグリーン席のシートポケットには雑誌やパンフレットなどが入っている。ペラペラめくって元に戻す人、あるいは持って帰る人もいるだろう。これらを手に取る人たちに質問したい。もしシートポケットに何もなかったら、CAさんや車掌さんに持ってきてもらうようにお願いするだろうか。おそらく、ほとんどの人はしないはずだ。
つまり、初期状態によって人の行動が左右される。これをデフォルト効果という。デフォルトとは、最初から設定されている状態や条件のことだ。自身が置かれた状態によって行動が変わるという意味では、フレーミング効果の一種と考えることができる。
近年、日本で最も大きくデフォルトが変わった出来事は、レジ袋の有料化(2020年7月開始)だ。それまで黙っていても配布されていたものが、申告したうえで有料になった。有料化の影響もあるのでデフォルト効果だけの効果とはいえないが、レジ袋辞退率が7~8割になり、レジ袋の国内流通量が約20万トン(2019年)から約10万トン(2021年)まで減少した。
「デフォルト効果」も、これまで読んだ本で何度か遭遇しています。
今回引用した理由は「サンクコストの誤謬」と同じく、解説で使われた事例が面白かったためです。
「シートポケットの雑誌やパンフレット」の件には納得感があります。
自分はペラペラめくって元に戻す人です。
そしてもちろん、シートポケットに何もなくても特に気になりません。
もう一つの事例、「レジ袋の有料化」の件も納得感がありました。
たしかに最近でデフォルトが変わった分かりやすい事例です。
それにしても、レジ袋辞退率が7~8割というのは驚きです。効果絶大ですね。
自分もレジ袋の有料化きっかけでエコバッグを持つようになりました。
しっかりデフォルト効果の影響を受けたわけですね。
デフォルト効果は今回の引用でも分かるように強力なので、取り扱い注意としているようです。
ということで、次の引用はその辺りに関してです。
デフォルト効果はかなり強力なので取り扱い注意
表記方法を変えるだけで、行動が変わる例は多々ある。
たとえば、南アフリカのある病院では、妊娠検査にHIV検査が含まれている。妊婦に拒否権はあるが、検査を前提にすることで98%の妊婦が受け入れた。また日本では医療費増加を抑えるために、特許期間が切れたジェネリック医薬品を推進する動きがあった。ところが、あまり普及しなかったので、2008年に処方箋の形式が変更された。医師が従来の先発医薬品を希望する場合は、「後発医薬品への変更不可」欄への署名が必要となったため、ジェネリック医薬品が前提となった。診療報酬上の後押しなどもあったので、一概にデフォルト効果だけの影響とは断言できないが、数量シェアは32%(2005年)から79%(2021年)まで上昇している。
デフォルト効果の影響は、シンプルでありながら強力だ。
したがって、政府や自治体、企業が採用することが多い。その際の設定には注意を払う必要がある。安易な設定は、利用者や消費者に倫理的、経済的な不利益をもたらす可能性があるからだ。
一方、利用者側も惰性で判断することは危険だ。初期設定の内容が多岐にわたるので、決定的な防衛策というものはない。しかし、考える労力を惜しまない、あるいは違う表現に置き換えることなどで冷静な判断を取り戻すことができるだろう。
今回の引用で触れている事例(妊娠検査にHIV検査をデフォルトで含める、ジェネリック医薬品をデフォルトにする)も、読む限りではデフォルト効果の影響が大きい印象です。
どの事例も効果が絶大だからこそ、場合によっては意図せず不利益が生じることもあるかなと思います。
「サブスクの契約の自動更新」などもそれに該当するかなと思います。
更新のタイミングで「継続 or 退会」の判断を仰がずに自動更新にしてしまうことで、継続利用の可能性を高めていたりするかなと。
「あまり使ってないから退会しよう」とシビアに考えている人はあまり損しない気もしますが、「退会手続きが面倒…」といった感じでズルズルと継続利用している人も多そうです。
今回の引用の最後では、デフォルト効果の「決定的な防衛策というものはない」としています。
強いて言うなら「考える労力を惜しまない、あるいは違う表現に置き換える」としています。
なかなか強引な防衛策にも感じますが、自分も良い案は浮かびません。
これしかないのかもしれません。
1つ前の引用で紹介した「レジ袋の有料化」は環境面から見ても良い事例だと思うのですが、そういった事例ばかりではないということですかね。
デフォルト効果の事例は他にもたくさんあるので、事例が載っているサイトをリンクしておきます。
おわりに
ということで「認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学 編(前編)」として書いてみました。
今回の記事で引用したのは
- サンクコストの誤謬
- デフォルト効果
の2つでした。
「デフォルト効果」が印象的でした。
今回引用した事例で見ても、デフォルト効果を採用する前後でデータの推移が大きく変わっています。
デフォルト効果の影響は強力なので、仕事をするうえで採用する側としても、利用する側としても、気を付けないといけないなと思いました。
「認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学 編」は3記事に渡って書きました。
他の記事も良ければぜひ。
- 【感想】『認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学 編』[前編] ← 今回の記事
- 【感想】『認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学 編』[中編]
- 【感想】『認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学 編』[後編]
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